フライラインの巻き癖は簡単には取れませんよ。

たまに来られるご常連様から、

”ラインの巻き癖を取りたいので、ネットで検索していたら、
ナノ何とか?
というものがあったので、
取り寄せできますか?”
というご依頼を頂戴した。

残念ながら勉強不足な道具屋おやじ、
あいにくそのナノ何とかを知らなかったので、
そのご常連と一緒にネットで検索してみると、
すぐにその商品の使用感が出てきて、

”関東のSというお店で購入したのだけれど、
効果は?”
などと書いてあった。

あったり前田のクラッカー!
なんてもう知る人も少ないと思いますが、

当たり前です、このご使用感。
お使いになった貴方は正しい!
ラインの巻き癖なんて簡単には取れません。

ラインの巻き癖は非常に根深い問題を孕んでいて、
そもそもその巻き癖が、
ただ単にリールに巻いていた時についた、
ご使用初期のものなのか、

それともある程度は使用して、
キャスティングに起因する癖でついてしまったものを、
リールの巻き癖と混同しているのかによって、
申し上げることが異なってきます。

ちなみに前者の場合、
ラインのメーカーによっても異なるが、
エアフロの場合には、現場で使用するときに、
リールからラインを引っ張り出して、
2~3回伸ばしてやれば綺麗に伸びることが多い。

またSAの場合には、
夏用のラインを冬に使うと、
ラインが硬くなっていて、
何回引っ張っても真っすぐにはならない。
夏用と冬用の指定がなければ、
数回引っ張れば癖は取れてくれることが多い。

(これはナイショ話ですが、
季節的な問題では、エアフロのほうが許容範囲が広い、
そのように思います。
最悪なのはSAの夏用のラインを冬に使うことで、
これはラインがガチガチに固まっていて、
使いものになりませんのでお気をつけ下さい。)

さて、今の事例はラインがほとんど未使用の状態で、
リールに巻き込んで初めて使う場合のケースですが、
これは本当に少ない例で、
問題は次のような症状を内包するケースが圧倒的に多い。



ところで話しは変わりますが、
道具屋おやじの若き日の修行時代のこと。

道具屋おやじが10代から20代前半の頃は、
先生がリッツと沢田さんしかいなかったため、
ピックアップ&レイダウンを何万回、何十万回と繰り返して、
なんとか同一平面上をティップが通るような努力を毎日繰り返した。

また、体育館の壁に沿って腕を動かせば、
同一平面上を通すことができるからと聞くと、
似たような条件の建物を探して練習し、

あるいは、お風呂に入って浴槽のふちをなぞれば、
体が柔らかくなっているので、
直線移動をやりやすいと聞いて、
のぼせるほどに練習し、

おかげである程度は同一平面上を投げることが
できるようになったけど、
それでも油断すると腕の動きが微妙にカーブを描いてしまう。

カーブを描くとすぐにラインに変化が表れて、
WFの細いランニングの部分は捩れてしまうので、

”これはまずい、おいらの根性と一緒で曲がっている”

などと独り言を言いながら、ロッドからリールを外して、
ラインの回転方向とは反対側にラインを捻って、
捩れを丁寧にとっている。

これは非常に大事な作業で、
捩れたラインを真っ直ぐにしようと、
いきなり引っ張って癖を取ってしまったら、
残念なことに全体とコアまでも捩れてしまうので、
そのラインはもう真っ直ぐになることはない。

ラインの癖を取るのはこんな地道な作業が必要なのに、
それを、スプレーをちょっと一拭きすれば癖が取れるなんて、
できるはずもない。

道具屋おやじは今年で45年ほど
フライフィッシングを嗜んでいるけれど、
同一平面状を通すキャスティングができる人なんて、
めったに見たことがないよ。

そもそもフライキャスティングって、
日常では使わない動作を繰り返すので、
体はどうしても普段の動作に近い動きをしてしまう。

普段の動作に近い動きとは何かといえば、
それはボールを投げる動作だ。
キャッチボールをしたことがない人はいないと思うけれど、
たとえば右利きの人がボールを投げるために振りかぶった場合、
ボールを持つ手は必ず体の内側に入ってくるので、
真っすぐに投げているつもりでも、
ボールを持つ手は左側に入ってくる。

またボールを前で投げて止めた場合、
右利きの人は必ずボールを持つ手が左側に入ってくるので、
ボールをフライロッドに持ち替えても、
同じように左側に入ってしまう。

ということは、
真っ直ぐに投げているつもりでも、
毎回バックキャストとフォワードキャストで、
手が体の内側に入ってくるので、
その度に、自動的にカーブが掛かってしまう。

これがラインの捩れの根本的な要因の一つで、
知ってか知らずか自分でラインに捩れを入れているので、
ちょっと練習したり、あるいは実戦で使ったりすると、
ラインが捩れてしまうことになる。

こうやってついたラインの癖は、
引っ張ってもとれないし、
ましてやスプレーなどを使っても、
取れることはあり得ない。

強引に引っ張って捩れを取っていたら、
その瞬間では真っ直ぐになっても、
すぐにまた捩れが入ってしまって、
コアまで捩れるとラインの寿命が早く終わってしまうので、
道具屋さんを喜ばすだけだ。

ラインの寿命を延ばすコツはただ一つ、
ロッドのティップを同一平面状を動かすこと。
それがちょっとづつできるようになってくると、
ラインの捩れもだんだん少なくなってきます。

もちろんスペイキャストでは無理な話しなので、
練習や実戦が終わったら、すぐにリールを外して、
癖のついた方向と反対側にラインを捻って、
きっちりと癖を取って下さい。

ロッドを真っ直ぐに振るには、
宮本武蔵のように、
”千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を錬とす”
ような修行が必要です。

手を抜いては駄目ですよ。

さてここからは余談ですが、
道具屋おやじは誰かにロッドをお貸しすると、
その方が真っ直ぐに振っているか、
それとも弧を描くように振っているか、
ちゃんと分かります。

お貸ししたロッドを自分で振ってみると、
ロッドが捻じれているのが分かります。
そこで自分で真っ直ぐに振ってみると、
だんだんロッドが真っ直ぐになってきます。
素材が科学的なカーボンでも、
案外、生き物っぽいものなんですね。