悪魔の囁き、その2。オイラは釣り道具屋。

オイラは釣り道具屋のおやじだ。
ある地方都市で、25年以上もこの商売を営んでいる。

ちなみに、
釣り道具屋といっても、餌釣りとか海釣りとか、
あるいはちょっとカッコイイルアーショップとか、
いろんなジャンルに分かれるが、
オイラがやっているのはフライフィッシングだ。

フライフィッシングは日本に入ってきて、
もう50年以上は経過しているが、
それでも世間ではあまり馴染みがない釣りだ。

たまにテレビのコマーシャルで使われることがあるので、
ちょっとだけ見る機会ぐらいはあるかと思うのだけれど、
実際にフライを目にしかことがある人など、
ほとんどなきに等しいことだろう。

そこで簡単に説明すると、
フライとは毛鉤のことで、
これを竿=フライロッドで投げて魚を釣る。
他にフライフィッシングでは、
フライライン=釣り糸、
フライリール=釣り糸を巻くリールなどが
必需品となるが、
何といっても肝心なのは魚を釣るフライで、
フライフィッシングに使うフライは、
すべて自分で作ることになっている。

毛鉤を作ることをフライタイイングというが、
なぁに、わざわざ英語でいうことはない。
フライを巻く、などと日本語で言い直すことが多いのは、
キザだと思われないように、予防線を張っているだけのことだ。

さっき、自分で使うフライは自分で作るといったけれど、
忙しくて作れない方のために、
道具屋おやじの店では、
完成品のフライを用意して、
急に釣りに行きたくなった常連のために、
いろんな種類のフライをストックしてある。

そのために、
たくさんのフライを巻かなければならず、
店の中にお客さんが一人もいなくても、
案外と忙しいものだ。

うちの店は12時から20時まで営業しているが、
通販のメールをチェックしたり、
ホームページやブログ、FBのメンテナンスなど、
営業開始時間からやることがいっぱいだ。

それがひととおり終わると、
今度はフライを巻いていく。
けっこう注文がたまっているので、
毎日、ある程度の数量を作らないと、
仕事がまったく捗らない。
店の中にお客さんがおられなくても、
自分のなかでは一日中、てんやわんやの状態だ。

ところで話は変わるが、
道具屋おやじの店では通販をやっていて、
北は北海道から、南は九州、沖縄、台湾まで、
幅広く通販を承っている。

そのため、
大手の運送屋さんが毎日集荷に来てくれるのだけれど、
だいたい集荷にくる15時過ぎは、
ちょっと暇な時間で、仕事が一段落して、
お客さんもいないため、
のんびりしていることが多い。

そんなある日のこと、
集荷に来た運送屋さんのドライバーが、

「いつも暇そうにしてますけれど、よくこれでつぶれませんねぇ。」

などとからかうように言ってきた。

そこでオイラも、

「そうそう、自分でもよくつぶれないなぁと思っているのだけれど、
これで25年も乗り切ってきたから、まぁ当分大丈夫かもね。
ただ今回のコロナ騒動はひどいので、
ひょっとしたら危ないかもしれないなぁ」
などと返してやった。

25年もの長い間、
自分でもよくつぶれあいなぁと思っているのだけれど、
幸い優秀なお客さんに恵まれたおかげで、
商いを続けることができている。
うちの常連は他人に配慮ができる優しい方達ばかりで、
今回のコロナ騒ぎでも、マスクが入手できないオイラをみて、
わざわざマスクをくれた方が何人もおられたし、
消毒液を持ってきてくれたかたもおられた。
本当にいいお客様に恵まれたと、感謝しながらの毎日だ。

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-お断り-
この話はすべてフィクションで、
たまたま見た夢を綴っただけのことです。
外出をオススメしているわけではありませんので、
念のため。
なお、この物語は当分の間、続きますが、
すべて実在の人物、会社、組織とは関係ありません。
どうぞご承知おき下さい。