悪魔の囁き、その4。鳥インフルエンザとコロナ。

‘何年か前に鳥インフルエンザが発生しただろ’

いつの間にかあらわれた悪魔が、ボソッとつぶやいた。

うわぁ、悪魔の奴。今夜はもう出てきたよ、
ちょっと早いぜ。
と思って枕元の携帯を見るといつもの丑三つ時だった。

ご常連からたくさんフライの注文を頂戴したので、
昨夜は頑張って12時過ぎまで
バイス(フライを巻く機械)の前に座っていた。
そのままベッドにもぐりこんだので、
まだ2時間ぐらいしか眠っていない。

悪魔め、オイラの貴重な睡眠時間を取るなよ、
ホント悪魔のような奴だなと思ったのだけれど、
まぁ、悪魔もいろいろと教えてくれるので、
文句は言わないことにしている。
眠気覚ましにホッペをピシャピシャと叩いて、
強引に目を覚ますことにした。

鳥インフルエンザといえば…

覚めきれないまま、寝ぼけた頭で考えた。

そうだ、鳥インフルは2003~5年頃に被害が東南アジアで拡大したが、
最初は、家禽として飼われているアヒルの大量死があったのだけれど、
そのうち、トリ→トリだけでなく、トリ→ヒトへの感染も報告されて、
いたんだよな。

初めの頃は、ヒトにはうつらないから大丈夫だ、
そういわれていたんだけど、
そのうち、突然変異したインフルエンザウィルスが
人間にもうつるようになった。

それで確か、中国では安徽省の24歳の女性が感染し、
発熱、肺炎の症状を示して死亡しているんだよね。

だんだん頭がはっきりしてきたので、
悪魔に確かめるように言ってみると、

’そうだ、何人か人間も死んでいる。決して鳥だけの問題ではなく、
人間にも罹患する可能性が充分にあるので、気をつけたほうがいい。
突然変異することがいとも簡単に起こるからね、ウイルスは。
ただね、鳥インフルの奴らは失敗した。やり方がまずかったね’

え?奴らって、なんのことを言っているのだろう。
怪訝そうな表情を見せたオイラに向かって、悪魔が続けてこういった。

’鳥インフルの奴らはね、最初は鳥に寄生した。
そこまではOKだが、その後がまずかった。’

’ところでオヤジは…’

悪魔の奴、いつの間にかオイラのことをオヤジと呼んでいる。
オイラは釣り道具屋のオヤジで、
常連からはオヤジと呼ばれているので、まぁいいか、
なんとでも好きに呼んでくれ。

’ところでオヤジは、フライを作る時に心配じゃないのかい?
フライは鳥の羽を使うだろう?
鳥の羽は中国から来ることが多いんだっけ?’

うわぁ悪魔の奴、イヤな点をついてきやがったよ。
フライに使う材料のことをマテリアルと呼ぶけれど、
知り合いにカナリ屋さんという名前でやっている、
有名なマテリアルの問屋さんがある。

ここの社長は優秀な方で、名古屋の超一流高校、東海高校を出てから
早稲田にすすんだというとても頭の良い、切れる方なんだけど、
そんな優秀なカナリ屋さんでも、
中国製の鳥の羽はドンドン高くなっていって、
どんどん入手しづらくなっている、
などと嘆いておられたから、
マテリアルの入手状況は切迫しているのだろう。
鳥インフルの影響で、
中国製の鳥の羽が入手が困難になってきているのは、
鳥が危ないと食べる人が少なくなるから、
鳥の羽も入手できなくなるわけだ。
なるほどね。

話はちょっと変わるのだけれど、
実は、今日もタイイング(毛鉤を作ること)しながら
あれこれと考えていたんだけど、
鳥の羽を素手で触って、
ひょっとして鳥インフルにかからないだろうか?
などと心配しながら作業をこなしていた。

昼間の作業を思い出しながら、
たぶん、鳥の羽を製品化してパッケージにつめる前に、
消毒したり、洗ったりしているだろうから、
きっと大丈夫だと思うけれど、
おいらは作業が捗りやすいように、
タイイング中についつい指を舐める癖があるから、
ひょっとしてもう体の中にウィルスが…
などと考えていると、

’大丈夫だよ、そんなことでは鳥インフルはかからない。
税関で薫蒸もするからね、ほとんどのウィルスは死滅する’

悪魔がオイラの不安を払拭してくれたので、ちょっと安心とした。

それは分かったけれど、さっき妙なことをいわなかったっけ、
鳥インフルの奴らは失敗したって…

‘あぁ、言ったよ。鳥インフルの奴らは失敗した。
だって考えてご覧よ、
鳥を使ってどれだけ勢力範囲を広げられるのだろう?
せいぜい渡り鳥に乗っかって、
ツバメやアカショウビンと一緒に日本に来るか、
カモと一緒にシベリアやカムチャッカに行くぐらいだろ、
白鳥も使えるけどさ。
それに渡りの途中で落ちる奴もいるから、
勢力範囲拡大には効率が悪い。
時間もかかるしね。’

’もしオレのような悪魔がコロナウィルスなら、
もっと効率を考えるよ。
たとえば人間に取り付くことができるなら、
人間は車だし、豪華客船だし、飛行機にもなる。
このほうが短時間で世界中に広げることができるから、
今回の新型コロナの奴らは、ホントに頭がいいよ。
たぶん鳥インフルのやつらのやり方を、
じっと観察していたんだろうね’

なるほど、悪魔の奴、うまいこといいやがる。
確かに人間は車に乗るし、船にも乗るし、飛行機にも乗る。
短時間で世界中の何処へも行けるから
勢力範囲を広げるのにはもってこいの乗り物だよね、
人間ってやつは。
鳥とは段違いに効率がいいぜ。

で、今後はさらに勢力範囲を広げるのかね、新型コロナウィルスは?
と聞いてみたのだけれど、悪魔の奴、いつの間にか姿を消していた。
窓の外が明るくなってきたので、太陽光線が怖いのだろうか…。

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-お断り-
この話はすべてフィクションで、
たまたま見た夢を綴っただけのことです。
外出をオススメしているわけではありませんので、
念のため。
なお、この物語は当分の間、続きますが、
すべて実在の人物、会社、組織とは関係ありません。
どうぞご承知おき下さい。



悪魔の囁き、その3。悪魔は丑三つ時に現れる。

眠れなくてうつらうつらしていると、
いきなり悪魔が現れた。
枕元にある携帯を覗くと、
時刻は午前の2時過ぎ。

この時間帯、
夏時間だとニューヨーク市場は昼休みに入る。
その日の午後の作戦を練るのにちょうど良いタイミングなので、
オイラはこの時間によく目を覚ます。

ただそれはFXとか商品先物をやっていた頃の名残で、
すでにそんな博打からは足を洗ったので、
今では目を覚ます必要はないのだけれど、
それでも昔の習慣は簡単には直らない。
未だにこの時間になると、
なんとなく眠りが浅くなってきて、
ついつい、パソコンでマーケットを覗きたくなってしまう。
悪い癖だ。

コロナのせいで店の売り上げは激減。
減った分の補充は、
もう一度、NYのマーケットにチャレンジして、
などと、昼間の暇な時間に考えていたのだから、
たぶん、そのせいで目が冴えたのかもしれない。

昔取った杵柄で、
頑張ろうなどと考えていたので、
神経が昂っていたのかね。

歳を取ると眠れなくなってくるのは、
抱えている問題が多過ぎて、
神経が休まらないのかもしれんなぁ。

寝ているのか覚めているのか、
うつらうつらしながら、
よしなしごとを考えていると、
枕元に現れた悪魔がこう囁いた。

’WTIはマイナスだってよ。
マイナスってひどいプライスだよ。
悪魔でもこんな値段はつけられないぜ’

悪魔の奴、
昨日(4/20)のNYのWTI=原油価格をみて、
まさかのマイナス40.32ドルに、
腰を抜かしたらしい。

オイラもついつい悪魔に同調して、
確かにひどい値段だ。
原油を買ったらお金までもらえるんかい?
などと考えていると、
オイラの表情を敏感に読み取った悪魔が、

’イヤ、そういうことではないが、
原油を採掘したら保管場所がいるだろう。
だから保管してもらうためのタンカーとか
貯蔵タンクの経費を売り手側が持つ、
そんな意味合いだと思うよ。
それにしても、ひどいなぁ。
いやひどいのはコロナの破壊力か、
それともコロナを全世界に報道する、
マスコミの破壊力かね。’




話しは変わるが、
オイラが現役でWTIを見ていた時、
最高値は1バレル147.27ドルまでいっていたが、
ショート主体の戦略を取っていたオイラは、
担ぎ上げられて散々な目にあった。

ちなみにショートとは、
これから価格が下がるだろうと予測して、
売りで入ること。

その時のオイラは、
石油無機起源説に凝っていて、
特にロシアに知り合いがいたわけではないが、
ロシアの学説の主流派である、
石油無機起源説が面白く感じていたので、
これがもし本当なら、
WTIの値段はいずれ下がるに違いない、
そう思い込んで、
決してロング=買いには行かず、
ショート=売りばかりで戦っていたのだけれど、
結局は、1バレル147.27ドルなんていう、
悪魔のような値段に苛められて、
全財産がスッテンテンになる直前で足を洗った。

もう少し意地を張ってマーケットにしがみついていたら、
今ごろは、家や車はもちろん、
店も手放して一家離散、
嫁も子供も離れ離れ、
なんていう憂き目にあっていたかもしれない。

けれども、
その時に諦めずに、
今でもショート一筋でやっていたら、
コロナのおかげで大儲けできたと思うけれど、
さすがに今は心情的にショート打つ気になれないなぁ。
でも、そこを敢えて行かなければ、
投資家としての本分は果たせないので、
やっぱりオイラは投資家には向かない、
などと考えていると、
悪魔の奴、
いつの間にか消えていた。

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-お断り-
この話はすべてフィクションで、
たまたま見た夢を綴っただけのことです。
外出をオススメしているわけではありませんので、
念のため。
なお、この物語は当分の間、続きますが、
すべて実在の人物、会社、組織とは関係ありません。
どうぞご承知おき下さい。




悪魔の囁き、その2。オイラは釣り道具屋。

オイラは釣り道具屋のおやじだ。
ある地方都市で、25年以上もこの商売を営んでいる。

ちなみに、
釣り道具屋といっても、餌釣りとか海釣りとか、
あるいはちょっとカッコイイルアーショップとか、
いろんなジャンルに分かれるが、
オイラがやっているのはフライフィッシングだ。

フライフィッシングは日本に入ってきて、
もう50年以上は経過しているが、
それでも世間ではあまり馴染みがない釣りだ。

たまにテレビのコマーシャルで使われることがあるので、
ちょっとだけ見る機会ぐらいはあるかと思うのだけれど、
実際にフライを目にしかことがある人など、
ほとんどなきに等しいことだろう。

そこで簡単に説明すると、
フライとは毛鉤のことで、
これを竿=フライロッドで投げて魚を釣る。
他にフライフィッシングでは、
フライライン=釣り糸、
フライリール=釣り糸を巻くリールなどが
必需品となるが、
何といっても肝心なのは魚を釣るフライで、
フライフィッシングに使うフライは、
すべて自分で作ることになっている。

毛鉤を作ることをフライタイイングというが、
なぁに、わざわざ英語でいうことはない。
フライを巻く、などと日本語で言い直すことが多いのは、
キザだと思われないように、予防線を張っているだけのことだ。

さっき、自分で使うフライは自分で作るといったけれど、
忙しくて作れない方のために、
道具屋おやじの店では、
完成品のフライを用意して、
急に釣りに行きたくなった常連のために、
いろんな種類のフライをストックしてある。

そのために、
たくさんのフライを巻かなければならず、
店の中にお客さんが一人もいなくても、
案外と忙しいものだ。

うちの店は12時から20時まで営業しているが、
通販のメールをチェックしたり、
ホームページやブログ、FBのメンテナンスなど、
営業開始時間からやることがいっぱいだ。

それがひととおり終わると、
今度はフライを巻いていく。
けっこう注文がたまっているので、
毎日、ある程度の数量を作らないと、
仕事がまったく捗らない。
店の中にお客さんがおられなくても、
自分のなかでは一日中、てんやわんやの状態だ。

ところで話は変わるが、
道具屋おやじの店では通販をやっていて、
北は北海道から、南は九州、沖縄、台湾まで、
幅広く通販を承っている。

そのため、
大手の運送屋さんが毎日集荷に来てくれるのだけれど、
だいたい集荷にくる15時過ぎは、
ちょっと暇な時間で、仕事が一段落して、
お客さんもいないため、
のんびりしていることが多い。

そんなある日のこと、
集荷に来た運送屋さんのドライバーが、

「いつも暇そうにしてますけれど、よくこれでつぶれませんねぇ。」

などとからかうように言ってきた。

そこでオイラも、

「そうそう、自分でもよくつぶれないなぁと思っているのだけれど、
これで25年も乗り切ってきたから、まぁ当分大丈夫かもね。
ただ今回のコロナ騒動はひどいので、
ひょっとしたら危ないかもしれないなぁ」
などと返してやった。

25年もの長い間、
自分でもよくつぶれあいなぁと思っているのだけれど、
幸い優秀なお客さんに恵まれたおかげで、
商いを続けることができている。
うちの常連は他人に配慮ができる優しい方達ばかりで、
今回のコロナ騒ぎでも、マスクが入手できないオイラをみて、
わざわざマスクをくれた方が何人もおられたし、
消毒液を持ってきてくれたかたもおられた。
本当にいいお客様に恵まれたと、感謝しながらの毎日だ。

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この話はすべてフィクションで、
たまたま見た夢を綴っただけのことです。
外出をオススメしているわけではありませんので、
念のため。
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どうぞご承知おき下さい。