悪魔の囁き、その1。悪魔が現れた。

夜中に息苦しくて目が覚めたら、
ベッドの上に悪魔がいた。

悪魔のやつ、オイラの体の上に乗っかって、
こちらの体を調べるように覗きこんでいる。
どうりで重くて息苦しいはずだ。

オイラが起きたのに気がついた悪魔は、
オイラの目を見てこう囁いた。

’外に出てコロナにかかってみませんか?’

なんてこというんだこいつ。
コロナにかかれだってよ。
ひどいことをいうもんだと呆れていると、

’なぁに、あなたなら大丈夫。
スキャンしたところ健康そうだし、
重症疾患もなさそうだから、
コロナが体内に入ってきても、
きっと乗り切れますよ’

なるほど、オイラは特に悪いところもないし、
やっかいな病気も抱えていない。

続けて悪魔はこう囁いた。

’もうお気づきかもしれませんが、
すでに選別が始まっております。
コロナに掛かっても、
無症状の方がたくさんいますよね。
そういう方は選ばれたのです。
新しい人間に生まれ変わって、
これからの人類を支えていくのです。
あなたも健康体ですからその資格がある。
ぜひ外に出て、コロナの洗礼を浴びてから、
無事に生き残って下さい。
コロナにかかっても発症しなければ、
新しい免疫が獲得できますよ’

そこまでいうと悪魔はふっと姿を消した。

夢かと思ったが、
体に乗った重みがすっと消えたので、
夢ではないかもしれない。

でも悪魔のやつ、
なぜオイラの前に現れたのだろう?

オイラはもう赤いちゃんちゃんこを着ているし、
どうせならもっと若いやつのところに行けばいいのに…

そう思ったが、
あるいは世代を変えて、

赤ん坊、
10代や20代の若いやつ、
働き盛りの30代や40代、
先が見えてきた50代、
そしておいらのような
60代でも元気な奴と、
いろんな年代の人間に、
働きかけているのかもしれない。

まとまったデータを集めたいのかね、
悪魔君は。

まぁいいか、
オイラは好きなことをやって人生を過ごしたので、
人生にそれほど悔いはない。

悪魔の囁きにしたがって、
仮にコロナに掛かって命を落としたとしても、
それほど悔しいわけではない。

それよりも、
本当にオイラが選ばれた人間なのかどうか、
ちょっと試したくなってきた。

部屋に閉じこもって、
フライを巻くのも飽きたし、
久し振りに外の空気を吸ってみるかぁ~

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-お断り-
この話はすべてフィクションで、
たまたま見た夢を綴っただけのことです。
外出をオススメしているわけではありませんので、
念のため。
なお、この物語は当分の間、続きますが、
すべて実在の人物、会社、組織とは関係ありません。
どうぞご承知おき下さい。