‘サナダムシダイエットって知ってるかい’
今夜は定刻どおりに現れた悪魔がボソッと囁いた。
サナダムシダイエットって、
何年か前に流行ったことがある
ダイエット方法の一種だろ。
確かサナダムシの卵を飲み込んで、
お腹の中に寄生させると、
余分なカロリーを消化してくれるので、
寄生されている人間は太らないってことだよね。
’そうそう、そのサナダムシダイエット。
これをやると宿主は太りにくくなるが、
実はもっと凄いこともある’
目を輝かせるように興奮しながら、
悪魔が大きな声でいってきた。
おい悪魔、今は丑三つ時なんだから大声を出すなよ。
ご近所迷惑だし、悪魔が来ているなんてバレると困るから、
いつものように小さな声で囁やいてくれよ。
といってやると、
急にトーンを落として、
それでも嬉しそうにもう一度、
’そう、サナダムシ。あいつはいい奴だ’
などというので、悪魔はサナダムシに借りでもあるのかねぇ。
まぁどっちみち、どちらも日陰の身だけどさ。
で、そのサナダムシ、お腹の中に寄生させると、
何かいいことがあるのかな?
と悪魔に問いかけると、
また大きな声で、
’おおありだよ!’
などと興奮して叫ぶので、
慌てて悪魔の口を押さえてやった。
オイラの手の中でもごもと口ごもる悪魔が、
ようやく興奮が覚めて落ちついてきたところで、
で、サナダムシがいると、
どんないいことがあるんだい?
もう一度、同じように問いかけてみると、
’実はね、サナダムシが寄生すると宿主はガンに掛からない。’
えぇ、うっそ~
今度はこっちは思わず大声で叫んでしまった。
慌てて悪魔の奴、オイラの口を押さえながら、
’本当だよ、サナダムシは自分が健やかに生きるために、
宿主の健康を保とうとする。
そのため、寄生された人間が、ガンなどの病気になると、
サナダムシ自身の健康も脅かされるので、
寄生主の健康を、
できるだけ保とうとするんだよ’
’ただね、サナダムシにも相性があるようで、
どのサナダムシでもいいわけではないらしい’
そいうえば、5年ぐらい前に太っていたとき、
こんな記事を真面目に読んでいたことがあったっけ。
「サナダムシを自分のお腹で飼ってみたら、
中性脂肪が落ちてメタボが解消され、
健康体になりました」 藤田紘一郎
2015/09/29
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/45546
記事の中では、
こんなところが面白かったのを覚えているよ。
「だいぶ昔の話になりますが、インドネシアのカリマンタン島に
疫学調査に行ったときのことです。当時の島の生活環境は劣悪で、
ウンコをたれ流す同じ川で子どもたちが水遊びをしていて、
さらにその横では炊事や洗濯もしているわけです。
調べてみると、案の定、
住民たちにはみな回虫などが寄生していました。
ところが体調にはどこも悪いところがなく、
肌もツヤツヤと黒光りしていて
実に健康的なんですよ。血圧も、
コレステロールもまったくの正常値です。」
そうかぁ、寄生中がいたほうが健康を保てるってことか。
悪魔の言いたいことはなんとなく分かった、
それでオイラにサナダムシを飲めとでも?
’いや、そんなことは言っていない。
だいたい、現代の日本でそう簡単にサナダムシが手に入る
はずもないだろ。
どこの家でもコロナ対策で、帰ってきたら嫁にすぐに
手を洗わせられるのだから、清潔そのものだよ’
続けて悪魔がいうには、
’でもね、サナダムシの作戦はコロナウィルスと同じ作戦かも
しれないよ。今回のコロナは案外賢い。
いや、最初は出来の悪い奴だったかもしれないが、
人間の中に入るたびに変異を繰り返していて、
いまやサナダムシ以上に賢くなっている。’
ということはどういうことなの、
早く結論を言ってくれよ。
ちょっと白くなってきた窓の外を眺めながら、
消えられるといけないので悪魔に急かしてみると、
’人間は乗り物だ、コロナにとってはね。
それに勢力拡大にももってこいだ、
人間は車であり、船であり、飛行機でもあると
いつか言ったよね。’
さらに悪魔が続けて、
’その乗り物が健康じゃなければ、
寄生する自分たちも危うくなる。
エボラの奴らのように自爆しては元も子もない。
だからね、最新型のコロナは、共存共栄を図って、
宿主を健康な状態に保とうとする。
そうすれば自分たちも安全だからさ’
ここまでいうとついに今朝は時間切れ、
空が完全に明るくなる前に、
悪魔は忽然と姿を消した。
悪魔の奴、いったい何を言いたいんだろう。
ダイエットして健康になれってことなのかねぇ。
どうにも悪魔の真意が理解できないのだけれど、
とりあえず、オイラに健康な生活をおくってもらいたいようだ。
うちにくる悪魔の奴、どうして不幸になるオイラを喜ばないのかねぇ、
オイラの健康を望むなんて、本当に変な悪魔だよ、おまえは。
まさかねぇ。
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-お断り-
この話はすべてフィクションで、
たまたま見た夢を綴っただけのことです。
外出をオススメしているわけではありませんので、
念のため。
なお、この物語は当分の間、続きますが、
すべて実在の人物、会社、組織とは関係ありません。
どうぞご承知おき下さい。