眠れなくてうつらうつらしていると、
いきなり悪魔が現れた。
枕元にある携帯を覗くと、
時刻は午前の2時過ぎ。
この時間帯、
夏時間だとニューヨーク市場は昼休みに入る。
その日の午後の作戦を練るのにちょうど良いタイミングなので、
オイラはこの時間によく目を覚ます。
ただそれはFXとか商品先物をやっていた頃の名残で、
すでにそんな博打からは足を洗ったので、
今では目を覚ます必要はないのだけれど、
それでも昔の習慣は簡単には直らない。
未だにこの時間になると、
なんとなく眠りが浅くなってきて、
ついつい、パソコンでマーケットを覗きたくなってしまう。
悪い癖だ。
コロナのせいで店の売り上げは激減。
減った分の補充は、
もう一度、NYのマーケットにチャレンジして、
などと、昼間の暇な時間に考えていたのだから、
たぶん、そのせいで目が冴えたのかもしれない。
昔取った杵柄で、
頑張ろうなどと考えていたので、
神経が昂っていたのかね。
歳を取ると眠れなくなってくるのは、
抱えている問題が多過ぎて、
神経が休まらないのかもしれんなぁ。
寝ているのか覚めているのか、
うつらうつらしながら、
よしなしごとを考えていると、
枕元に現れた悪魔がこう囁いた。
’WTIはマイナスだってよ。
マイナスってひどいプライスだよ。
悪魔でもこんな値段はつけられないぜ’
悪魔の奴、
昨日(4/20)のNYのWTI=原油価格をみて、
まさかのマイナス40.32ドルに、
腰を抜かしたらしい。
オイラもついつい悪魔に同調して、
確かにひどい値段だ。
原油を買ったらお金までもらえるんかい?
などと考えていると、
オイラの表情を敏感に読み取った悪魔が、
’イヤ、そういうことではないが、
原油を採掘したら保管場所がいるだろう。
だから保管してもらうためのタンカーとか
貯蔵タンクの経費を売り手側が持つ、
そんな意味合いだと思うよ。
それにしても、ひどいなぁ。
いやひどいのはコロナの破壊力か、
それともコロナを全世界に報道する、
マスコミの破壊力かね。’
話しは変わるが、
オイラが現役でWTIを見ていた時、
最高値は1バレル147.27ドルまでいっていたが、
ショート主体の戦略を取っていたオイラは、
担ぎ上げられて散々な目にあった。
ちなみにショートとは、
これから価格が下がるだろうと予測して、
売りで入ること。
その時のオイラは、
石油無機起源説に凝っていて、
特にロシアに知り合いがいたわけではないが、
ロシアの学説の主流派である、
石油無機起源説が面白く感じていたので、
これがもし本当なら、
WTIの値段はいずれ下がるに違いない、
そう思い込んで、
決してロング=買いには行かず、
ショート=売りばかりで戦っていたのだけれど、
結局は、1バレル147.27ドルなんていう、
悪魔のような値段に苛められて、
全財産がスッテンテンになる直前で足を洗った。
もう少し意地を張ってマーケットにしがみついていたら、
今ごろは、家や車はもちろん、
店も手放して一家離散、
嫁も子供も離れ離れ、
なんていう憂き目にあっていたかもしれない。
けれども、
その時に諦めずに、
今でもショート一筋でやっていたら、
コロナのおかげで大儲けできたと思うけれど、
さすがに今は心情的にショート打つ気になれないなぁ。
でも、そこを敢えて行かなければ、
投資家としての本分は果たせないので、
やっぱりオイラは投資家には向かない、
などと考えていると、
悪魔の奴、
いつの間にか消えていた。
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-お断り-
この話はすべてフィクションで、
たまたま見た夢を綴っただけのことです。
外出をオススメしているわけではありませんので、
念のため。
なお、この物語は当分の間、続きますが、
すべて実在の人物、会社、組織とは関係ありません。
どうぞご承知おき下さい。