悪魔の囁き、その15。真奈美ちゃん、その2。

’でその後はどうなったんだ?’

オイラが回想を終えるのを待っていたかのように
悪魔がつっこんできた。

実はね、一緒に管理釣り場に行ったのは、
3月の初め頃のことだ。
その頃はまだ連絡が取れてね。

医者から免疫が弱っていて、
コロナに気をつけるようにいわれているので、
ヘルパーさんに全部まかせて、
あたしは家の中でじっとしていると言っていた。

けれども、その後はもう連絡が
取れなくなってしまった。
心配で、3回ほどメールを打ったのだけれど、
まったく返信がない。

最後のメールの文面はね、

『あたしはもう力が入らなくなってきているよ。
吐血もたまにするから駄目だろう。』

と終わっていたよ。
すぐに励ましのメールを打ったんだけど、
返事がなかったよ。

それ以降は全然、連絡が取れなくて、
もう桜の季節も過ぎてしまったからね、
桜も見れなかったかもしれない。

’そうか、じゃぁ、管理釣り場の帰り道の約束は、
果たせなかったわけだ’

あぁ、そんな約束をしたんけれど、
果たせなくてちょっと残念なような、
一安心のような複雑な心境だったのだけれど…。

’だったって、どういうことよ。ひょっとして真奈美ちゃん…’

あぁ実はね、彼女のヘルパーを名乗る方から荷物が届いてね、
中をあけると6ピースのフライロッドが入っていたよ。

今の時代には、
フライロッドは4本つなぎの
4ピースが多いけれど、
持ち運びに便利なように
6本つなぎの6ピースもあるんだよ。
女性のアングラーは車がないので、
バスや電車で釣りに行く人も多いから、
短くたためて携帯に便利な、
6ピースロッドを使うことが多いんだね。

おまけにそのロッドは、
握りのコルクの部分を細く削ってあってね、
真奈美ちゃんは手が小さかったから、
削ってあげた覚えがあるんだ。

’ということは、それは真奈美ちゃんのロッドっていうことか。
ということは、真奈美ちゃんはひょっとして…’

いや、まだわからない、入院しているだけかもしれないし、
旅立った証拠なんてこれだけじゃわからないからね。

でもね、
抗がん剤の影響で免疫が弱っていたから、
たとえ家の中でじっとしてマスクをしていても、
まんまとコロナに乗り移られたかもしれないし…

ここまでいうと悪魔の奴、急にシュンとしてこういった。

’確かにコロナはどんなに厳重予防しても、
必ず家の中に入り込めるよ。
ただ、入られたとしても、
健康な人なら症状が出ないか、
ちょっとの症状で終わる。
オヤジもいつか、急に37.5度の熱が出て、
それがすぐに収まったことがあっただろう。
あの時はコロナじゃなかったかもしれないが、
何かのウィルスに入られたことは間違いない。
でも1時間ぐらい寝ていたら、
すぐに36.5度に下がったじゃないか。
健康な人ならそんな感じですぐに収まっちゃうんだよ、
新しい免疫を獲得してね。’

おや悪魔の奴、いつの間にかオイラのことを
オヤジと呼んでやがる。
まぁいいか、どうせオレは釣り道具屋のオヤジだ。
なんて呼んでもらっても構わない。
常連からはオヤジと呼ばれているし。

’でも、真奈美ちゃんのように免疫が落ちている人はひょっとして…’

ここまでいうと悪魔は用事でもあったのか、
いきなり姿を消した。

(続きます)

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-お断り-
この話はすべてフィクションで、
たまたま見た夢を綴っただけのことです。
外出をオススメしているわけではありませんので、
念のため。
なお、この物語は当分の間、続きますが、
すべて実在の人物、会社、組織とは関係ありません。
どうぞご承知おき下さい。